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秋田地方裁判所横手支部 昭和49年(ワ)48号 判決 1975年9月03日

主文

被告は原告に対し、別紙物件目録記載の土地につき昭和二九年四月一七日付贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決。

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二  当事者の主張

一  原告

1  請求原因

(一) 原告は被告から昭和二九年四月一七日別紙物件目録記載の土地(以下単に本件土地という。)の贈与を受けた。

(二) よつて、原告は被告に対し、本件土地につき右贈与を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。

2  仮定的抗弁に対する認否

被告主張の抗弁事実は否認する。

3  仮定的再抗弁

原告はすでに被告から本件土地の引渡を受けているから、本件土地の贈与はその履行を了しているので、被告の贈与取消の主張は理由がない。

二  被告

1  請求原因に対する認否

請求原因(一)の事実は否認する。なお、本件の事情経緯は別紙「被告の主張」記載のとおりである。

2  仮定的抗弁

本件土地の贈与は書面によらざる贈与であるから、被告は本訴(昭和五〇年五月一九日本件口頭弁論期日)においてこれを取消す旨の意思表示をした。

3  仮定的再抗弁に対する認否

原告主張の仮定的再抗弁事実は否認する。

第三  証拠関係(省略)

理由

成立に争いのない甲一、二号証、乙一、八、二四、二五、二六号証及び原告本人尋問の結果によると、本件土地はもと横手市新町八番二宅地一四三坪五合(四七四・三八平方メートル)の土地内に存在し、右八番二の土地はもと被告の先代訴外小松惣治(以下単に先代惣治という。)が所有していたが、昭和一七年四月二〇日同人死亡により、被告が右八番二の土地を含む同人の遺産を家督相続し、同二八年三月一九日右相続登記を経由したが、昭和四〇年四月一日右八番二の土地の住居表示が変更したため、これに基づき同四二年六月二〇日横手市二葉町一〇八番二宅地五一三・〇五平方メートル(なお、八番八の宅地三八・六七平方メートルを合筆)となり、その後右一〇八番二の土地は同四六年七月一日同所一〇八番二宅地三一二・一二平方メートルと同所一〇八番一二宅地二〇〇・九三平方メートル(本件土地)に分筆登記されていることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、前掲各証拠と成立に争いのない甲三号証の一、二、同四号証及び証人熊谷ミドリの証言、被告本人尋問の結果の各一部(後記措信しない部分を除く。)を総合すると、訴外熊谷ミドリ(以下単に訴外ミドリという。)は、父親の被告が先代惣治から家督相続により取得した不動産を他に処分し家産が逸散してしまう虞れのある状況があつたことから、昭和二九年三、四月頃被告が右相続不動産を恣意的に処分することを事前に予防阻止するため、弁護士大橋一郎を申立代理人として被告を相手に秋田家庭裁判所横手支部に対し財産処分禁止請求の家事調停を申立てた。右調停は受理され三回にわたり調停期日が開かれたが、右調停手続には被告の妹である原告は利害関係人として終始参加出席し、昭和二九年四月一七日午前一〇時から開かれた第三回調停期日において、申立人の訴外ミドリ、同代理人の大橋一郎、相手方の被告、利害関係人の原告及び訴外松川キヨが出席したうえ話合つた結果、当事者間に合意が成立し、「相手方は横手市新町八番の二宅地一四三坪五合の中、約四五坪(別紙図面記載の小坂タカ所有部分)を除いた部分並びに別紙目録記載の物件を処分しようとするときには、申立人と約一〇日前に相談の上でなすこと」の旨(以下単に本件調停条項という。)の調停が成立した。ところで右調停期日に利害関係人として出席した原告は、先代惣治の娘として同人を兄の原告に代つて永い間世話をしてきたうえ、先代惣治も生前原告に対し遺産となるべき不動産の一部を贈与する趣旨の発言をしていたこともあつたので、被告に対しこの際原告が相続した先代惣治の遺産の一部不動産を原告に無償譲渡してくれるよう申出たところ被告はこれを承諾し、たまたま本件土地部分が空地であつたことから、間口四間もあれば小さな家でも建てられるだろうということで、間口は前記八番二の土地のうち同地と西側で隣接する八番九、八番四の土地の東側端から東へ四間、奥行は道路に面した前記四間間口の東端から直角に直線で前記八番二の土地と南側で隣接する八番六の土地の北側端に至るまでの範囲の土地部分(本件土地)を原告に贈与する旨の意思表示をした。そのため本件調停条項中には、特に被告から原告に対する本件土地の贈与の前記話合いの結果を要約確認する形で、本文中に特に括弧書きで(別紙図面記載の小坂タカ所有部分)と明記したことが認められ、右認定に反する証人熊谷ミドリの証言及び被告本人尋問の結果は前掲各証拠に照らしにわかに措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで、次に被告主張の抗弁について判断するに、民法五五〇条が書面によらざる贈与を取消し得るものとした趣旨は、贈与者の贈与の意思の明確化と軽率な贈与の防止にあるから、贈与の書面は特に「贈与証書」等の書面を作成することも、また文中必ず「贈与」の文言を使用することも必要ではなく、贈与者が自己の財産を相手方に与える意思が該文書により看取し得る程度の表現があれば足りるものと解するを相当とするところ、前掲各証拠によると、本件調停条項中の(別紙図面記載の小坂タカ所有部分)なる括弧書きは、前示認定のとおり、当日調停期日の席上で被告が原告の贈与の申入れを承諾して原告に本件土地を贈与する旨の意思表示をした結果、右調停条項案作成時には本件土地の所有権は贈与によりすでに原告に移転したことになることから、右贈与の合意成立を前提にしてその法律効果(原告の本件土地所有権取得)を端的に要約表現する形式をとつたため、前記括弧書きのような文章表現になつたものであつて、右贈与の事実をこのような表現方法で調停条項中に表記することについては、当時原、被告を含めた出席当事者間において特に異議もなくこれを了承していたことが推認されるから、本件調停条項中の前記括弧書きのような表現によつても、所有者の被告が自己の財産である本件土地を原告に無償で取得させる意思が要約表現されているものと解するのが相当であるから(なお、甲一、四号証の調停調書添付図面の脇書欄に譲渡者小坂タカとあるは、同号証の前後の記載内容及び弁論の全趣旨に照らし譲受者の誤記と認める。)、本件調停調書は民法五五〇条にいう贈与書面に該るものと解すのが相当である。従つて、被告主張の抗弁は爾余の点につき判断するまでもなく理由がないものというべきである。

よつて、原告の被告に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙

被告の主張

一、被告は本件土地を含む小坂惣治の遺産を昭和一七年四月二〇日家督相続し、同二八年三月一九日右相続登記を経由した。

二、相続登記経由後、原告は訴外司法書士福田勇吉に対し本件土地を被告から贈与されたと称し、その移転登記手続を依頼したらしく、右訴外人から被告に対し、登記申請書類等送付されてきたが被告は本件土地を原告に贈与したことがなかつたし、贈与するつもりもなかつたので右申請書類に押印することを拒み、そのことを右訴外人に通知した。

三、その後、被告が女に迷い、相続した家産を処分しようとするのを恐れた被告の長女熊谷ミドリが、被告を相手に財産処分禁止請求の調停申立をし、右調停は昭和二九年四月一七日成立した。右調停においても、原告も利害関係人として出席したが、被告はその席上で原告に対し本件土地を贈与したことはなく、甲第一号証の調停調書の調停条項第一項の括弧書きのような記載が為されたのは、原告が本件土地をミドリの干渉なしに被告から贈与を受けんとして右部分を除外したものである。

四、原告は昭和四六年六月三〇日被告に何の断りもなく勝手に本件土地の登記名義人表示変更の登記を為した後、同日付をもつて分筆登記を為したものであるが、被告は右分筆登記を何人にも依頼したことがない。

五、昭和四八年一一月二八日被告は本件土地につき、贈与を原因とする所有権移転登記手続をしたが、右登記は事実に基かないものであつたため直ちに誤記抹消されている。

六、原告の姉訴外佐々木マサは昭和四九年四月一二日東京に住む被告に対し、自宅に帰るよう勧める手紙を送付しながら、同年七月二〇日弁護士井上恵文を代理人として、本件土地は右マサが昭和一七年四月二一日祖父から贈与を受けたものだと主張する内容証明郵便を送達してよこした。

七、以上のような経過で原告は何とかして本件土地を原告の手に入れようと種々手段を弄しているのであつて、その主張は全く根拠のないものである。

別紙

物件目録

秋田県横手市二葉町一〇八番の一二

一 宅地 二〇〇・九三平方メートル

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